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心の回診

第一二四回

今年最初の心の回診、走馬灯のように様々な事が思い出されて来る。パウロ病院に入院されている患者さん、関連施設の沢山の利用者の方達とのふれ合 い、はじける笑顔、そして涙も沢山見た。人間生きると言う事はとてつもなく辛い時がある。神様は何故にこんな試練を与えるのか?理由(わけ)が解らなくて 神様を恨んで泣いた事もある。

しかし、現在(いま)が良ければ全てよしで、過去の苦労、試練には深い意味がある事を知った。試練を乗り越えたから現在(いま)があるのだと…。幸せは平凡でいい。毎日、つつがなく暮せればそれで充分だ。

先日、特急列車に乗って釧路の母に逢いに行って来た。母は歯科医だった父と結婚し、戦争で全てを失い、川崎から母の実家のある釧路に逃げのびて来た。厳格 な父とは対照的なコロコロとよく笑う母だった。六年生の修学旅行の時、友達は皆んなセーラー服なのに、私だけ母がミシンを踏んで作ってくれたばらの模様の ワンピースを着せられて「嫌だ!!」と泣いた…。参観日は着物を着て来る母が綺麗で、嬉しくて、自慢だった。その母が私の名前を忘れた。
今までは、お母さん、私修子だよ…って教えた。それもきつい調子で。

ごめんねお母さん、もう修子の名前も全部忘れていいよ。私はお母さんが生きてくれている事が幸せ。お母さんの五目御飯の味は、私から麻美子に引き継がれ て、孫の代になっているんだよ。時には泣きたい事いっぱいあるけど、生きているって素晴らしい。どんなに天国、極楽があると言われても、生きている事に意 味がある。老いとは、体も視力も衰える代わりに心の目が澄んで来て、本当に生きる意味、命の大切さが解るようになるのではないでしょうか。

まんまる新聞読者の皆様、今年もどうぞよろしくお願い致します。