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心の回診

第五十一回

新しい年が明ける。しかし余りその実感がない。振り返って何と忙しい一年だったのだろう…と思うけ ど、この気持ちが大晦日の31日から元旦に変わったからといって何が変わるものでもないのだ。「パウロ病院の仕事だけでなく、他の仕事もあって大変です ね」とよく言われる。しかし忙しいとは思うが大変とは思わなかった。同じ日の同時刻に二人の方の面談予定を設定してしまい何度か冷や汗をかいたり、母 (84歳)の独り暮らしが限界となり、グループホームの入所など精神面でも大変な事が多い年だった。仕事の合間をぬって何度か札幌と釧路を往き来した。母 に会いに行くのも嬉しかったが、釧路から札幌に帰る時は「早く家に帰りたい」と思った。

国文学者の中西進さんが『旅』についてこう書いている。「住むとはそこで心が澄む事」なのだそうだ。だから旅は必ず住家(すみか)澄家(すみか)に戻る事が前提されていると。

私は、これを読んだ時にすごく納得した。旅の楽しみは時に苦痛にも変わり易く、平穏な心が乱れる事も ある。小さな旅、大きな旅、いずれも家に帰った時に最初に言う言葉は「ああ、家が一番いいなあ」だ。日常きまった時間に家を出て、仕事をしたり沢山の人と 交わるのもまた小さな旅。心も体も疲れて家に帰ってくる。「ただいま!」と帰れる家があってこその旅であり仕事であって、この澄家なくして旅に出てどんな 幸せがあるだろう。また、どんな楽しみ方があるだろうか。「ただいま!」と帰れる家があってこそのものだ。こうして毎日澄んだ心を取り戻して、私はまた仕 事という小さな旅に出る。一年365日、この繰り返しの中で生きている。一年のあかで汚れきっていた私は住家で心を澄ませて、平成17年の新年を迎える事 ができる。

さあ、4日から仕事始めの旅が始まる。まん丸新聞愛読者の皆様もどうぞよい旅をなされて下さい。そして、皆さんの住家=澄家をお大切に。

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)