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心の回診

第五十回

時計の針はいつもと同じく、規則正しく時を刻んでいる。なのに12月は何故こんなにも心忙しくなるのだろう。電話の音もいつもよりけたたましく聞こえたりして、まるい心の筈が気がついたら四角い心の私がいた。

そんな午下り、ひょんなことから嬉しい事が重なって行った。その日は丁度パウロ病院では燃料手当てが 支給された日で、部署毎に、あるいは師長に伴われた職員が次々と挨拶に現れた。これはひょっとするとパウロ病院独自の光景なのかも知れないが、賞与が支給 された時、忘年会が終わった後で、温泉慰安旅行の後でなどなど、嬉しい事があった時には、職員が、「有難うございました」と挨拶に来てくれる。嬉しい事の 挨拶だから間違いなく全員が笑顔だ。集団を組んで来るので笑い声があたり一面に弾ける。

部屋のドアが遠慮がちにノックされる音が聞こえた。介護員のMさんがニコニコ笑って立っている。燃料 手当てのお礼を言ったあとに「会長の朝礼の言葉が楽しみです。いい言葉が胸に響いてビデオに録っておきたいです」とのこと。私はMさんの言葉が胸に染みて 嬉しかった。実は仕事の中で苦手であり重荷なのが、毎月、月の初めにある「朝礼」だ。何を話そうかと前日から憂うつになる。たった一人でもいい。こうして 朝礼の言葉が心に響くと言ってくれるスタッフがいる事を知って、四角かった心が一気に風船玉のようにふくらんだ。嬉しい事は重なるものだ。廊下を歩いてい たら通所リハのスタッフが「燃料手当てが有難くて半分を中越地震の被災地に送りました」とさらりと言うではないか。決して多くはない給料だ。この時期に出 る燃料手当てはどれ程彼女の生活に潤いを与えるか知れないのに、半分を困っている人に送った…。胸が揺さぶられた。私の側にはこんな素晴らしい職員がい る。なんだか今日は神様からご褒美を頂いたような嬉しい日だ。「お前も頑張れ」と神様が背中を押して下さったような気がした。よし!いい12月にできそう だ。

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)