医療法人 中山会 新札幌パウロ病院

第四十回

元旦の空はいつもの空とはやっぱり違う。太陽は輝き空気も清く澄んでいる。幸せな平成16年の新年の朝を迎えることが出来た。
私がこの世に「オギャ！」と産声を上げた日、父方の祖父、おじいちゃんは、私に吉井子（のぶこ）と命名した。なのに父は出生届を出す際に勝手に“”の字を“修”の字に変えて届けを出した。暫くの間「のぶ子ちゃん」と呼ばれていたらしいが、自然の流れの中で戸籍どおり修子になった。父と祖父の間でどんな葛藤があったかは知らないが、修子で良かったと思う。もし子 であったなら全く違う人生を生きていたのではあるまいか。私は夫との出会いを宝くじに当たった様な幸せな人生だと思っている。３人の子供に恵まれたのも、 娘が素晴らしい男性と結婚したのも、夫との出会いがなければこのドラマは生まれなかった。夫婦って本当に不思議だ。産んで貰った親よりも長く共に暮らし、 親よりも深く大切な関係になって行く。照れ屋だった夫は「愛している」なんて言葉は最後まで言ってはくれなかったが、子供達が学校でほめられた話しを聞か せると、すぐに両の目がウルウルと涙目になる人だった。一人娘の麻美子の好きな男性（ひと）に会うのを頑なに抵抗していたくせに彼にあったとたんに「結婚 式は早い方がいいべや」と決めるのも早い人だった。夫が逝って10年、私はこの10年を一気に駆け抜けてきた。毎朝「行って来ます。今日も守ってね」と挨 拶し「ただいま、今日も無事に終わりました」と報告する。迷路に入り込んで「どうしたらいいの？」と尋ねると、何故か答が見つけられる。「何時でも診る」 「何でも診る」「断わらない」が口癖で「患者さんや家族から、この人に脈を取って貰って死にたい」と今わの際に呼ばれる医者でなければならないと言ってい た。
お持ちが大好きだった夫は、焼き方もうるさかったっけ‥。だから元旦の朝は今も緊張する。今年もこんがりと焼けたお餅に具沢山の清まし汁をお椀に張っ て、柚子の皮とセリを添えた。「禮助さん、あなたが遺して行った大きな仕事は私への最後の最高のプレゼントでした。この仕事、今年もしっかり頑張るから見 ていてね」。